そういうことは相手に直接言ってくれ!

学生時代の話です。
当時、仲の良かった10人程度の男女混合の部活(文芸部)で、趣味が合ってよく話すようになったTくんという男子がいました。
お互いの好きな本を貸し合ったりしていただけの仲でしたが、ある日の放課後、Tくんから「一緒に帰ろう」と呼び出しが来て、柄にも無くドキドキしてしまいました。

Tくんはそれほどイケメンというわけではなかったし、趣味以外の話をあまりしてこなかったので、それまでは意識していなかったのですが…。
なんだろうなと思いながらも一緒の帰り道は意外に楽しく、駅で別れようとするとTくんは「一緒に夕飯食べない?」と駅前のファストフード店に誘ってくれたのです。
話も予想外に弾んで楽しい時間となり、別れ際にTくんが「もっと早く誘えばよかった」と言ってくれたので、私は更にドキドキしてしまいました。

それからは部活後の夕方は毎日一緒に帰ってどこかで夕飯、という流れになり、周囲の友達からも「仲良くなったね」と言われるほどになると、現金なもので、それまで意識していなかった私もどんどんTくんが好きになっていきました。
思い切って告白でもしてみようかな。でもこれってもう付き合ってると言えるんじゃないのかな…。
なんてモヤモヤしているのが嫌になり、ある日Tくんに向かって「なんでいつも誘ってくれるの?」としおらしくきいてみたところ、Tくんは顔を真っ赤にして、「誰と何してるかとか、どういう話してるのかとか、いつも気になってたから、思い切って誘ってみたんだけど…」と珍しく語尾を濁らせたので、私は心でガッツポーズを取りました。

あ。これいけるわ。絶対このままいけるパターンだわ。
そう思い、さてどうやって告白まで話を持って行こうかと頭をフル回転をさせていたところ、「でも、肝心なことはまだ訊けてないんだよな…」
と消え入りそうなTくんの声。これはもう相手からの告白か?私、闘わずして勝っちゃうのか?そう思って「何?何が訊きたかったの?」と身を乗り出した私にTくんは、「…あのさ、Fさんって、今付き合ってる人とかいないよな?」真っ赤な顔のまま、私の友達の女の子(同じく文芸部員)の名前を出してきたのです。

可愛くて女の子らしくて、男子が近寄るだけでも私の後ろに隠れてしまう、文学少女の理想のようなFちゃんの名前を…。
「あのさ、彼女、俺達男子と全然話さないけど、おまえとなら話すだろ?だから、ちょっとずつ彼女の話が聞ければなって思ったんだけど…」
あーなるほど。そうだよねえ。部活では彼女、私としか話してなかったもんねえ。
我ながらあっという間にテンションを下げた私は、その後も至極冷静に彼と「友達」の付き合いを続けることになりました。

残念?ながらTくんとFちゃんが付き合うことはありませんでしたが、その後も恋愛となると私にばかり相談してくるTくんには、3年間色々な意味で楽しませてもらいました。
ただ、とうとう卒業までに彼に言えなかった言葉が一つだけあります。
「そういうことは相手に直接言ってくれ!」

異性と 話せない 病気